私は以前は電車の運転士をしていました。
そのときに、一度だけ人身事故に遭遇したことがあります。
場所は年に10回は自殺のある有名な踏切で、その人もやはり自殺だったようです。
そのとき俺は特急を運転していました。
その踏切の手前には特急の通過駅があって、結構なお客様がホームにいたので、警笛を一声鳴らして通過した直後、その先の踏切に急に人が入って来たんです。

黒い長髪に眼鏡。
カーディガンにロングスカート。
綺麗な若い女性でした。
彼女とハッキリ目があった次の瞬間、彼女はこの世から消えてしまったんです。

慌てて急ブレーキをかけ、300mほど過ぎたところで電車は止まり、私は無線に一報を入れてから現場に走りました。
最早、彼女の跡形もありませんでした。
駅のホームや踏切のまわりからは悲鳴が聞こえ、中には失神する女性も。
私も初めてのことで、一瞬何がなんだか分からなくなりましたが、取り敢えず二人の車掌と規定どおりに彼女の残骸を集めることに。

警察が来て現場検証が行われている最中、我々乗務員と運転室上の展望席にいたお客様は警察官に当時の状況を聞かれました。
展望席に座っていたお客様は女子高生で放心状態。
私はようやく平常心を取り戻してきていたので、ある程度落ち着いて話せましたが、女子高生は何も話せないどころか、気分が悪くなり救急車で搬送。

事情聴取の為に警察署まで移動するということで、私は運転室に置き忘れた鞄を取りにいきました。
しかし、私が鞄を持ち上げようとしても持ち上がらない。中身は軽いものばかりなのに、何故かダンベルのように重いんです。
よく見ると電車の側面には血がべっとりついており、床にもこぼれ落ちていました。
鞄が持ち上がらなかったのは、床に置いていたので血が固まってしまっていたからだったんです。

私はそれから運転士に戻ることなく退職してしまいました。